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私の推し神を紹介します!

多くの人は「エルメス」と聞いたら、フランス発祥のラグジュアリーブランドのエルメスを思い浮かべると思います。

インターネットで検索しても最初に出てきた結果は、このエルメス(以下、ブランドのエルメス)でした。

それは私たちが、「エルメス」という言葉に共通の認識を持っているからなのですが、このエルメスが誕生する1837年以前の人々は、エルメスと聞いたら何を思い浮かべたのでしょうか?

 

おそらくギリシャ神話の神様の一人であるエルメスだと思います。

kotobank.jp

ギリシャ神話の全貌は詳しくは説明しませんが、今回は私の推し神「エルメス」についてまとめます。

へルメス?エルメス?メルクリウス?マーキュリー?

  • ヘルメス:ギリシャ語の読み方
  • エルメス:ヘルメスのフランス語読み(頭文字の「H」を発音しないため)
  • メルクリウス:ヘルメスのラテン語読み(ローマ神話での呼び名)
  • マーキュリー:メルクリウスの英語読み

つまり、この4つの名前は全て同じギリシャ神話の神様を意味します。

では、この神様(「ブランドのエルメス」と区別して、「神様のエルメス」と呼びます)はなんの神様なのでしょうか?

 

一般的に神様のエルメスは、以下の職分(担当領域)と言われています。

  1. 情報
  2. 伝令
  3. 牧畜
  4. 運動
  5. 商業
  6. 富・幸運
  7. 窃盗
  8. 弁論
  9. 賭博
  10. 道路
  11. 旅行

職分多すぎ、何でも屋の神様・・・

ちなみに、バッカス酒・豊穣、ポセイドンは海・水域なので、どう考えてもエルメスは担当しすぎなのです。

 

つねに絶妙に軽妙

神様のエルメスの何でも屋さん加減には理由があります。

それは、エルメスギリシャ神話のオリュンポスの神とはいえ、お話の中では結構脇役だから。

例えば、ゼウスが正妻ヘラに隠れて、人間の女性セメレーとの間に作ってしまった子供にまつわるお話。

おおまかなあらすじはこんな感じです。

  1. ゼウスが人間の女性セメレーと浮気をする(ゼウスは人間の前に現れる時は人間に変装しています)
  2. それを知ったゼウスの正妻ヘラは大激怒
  3. 正妻ヘラは浮気相手セメレーに伝える:「あの男(ゼウス)は本当の姿は怪物かもしれないから、本当の姿見せてって頼んだ方がいいよ」→ヘラは自分で手を下さないのが怖い
  4. セメレーはゼウスに頼む:「お願いごとがあるんだけど、聞いてくれる?」
  5. それに対してゼウス:「なんでも聞くよ!ステュクス川に誓って!」→この川は「針千本飲ます」的な絶対的な約束の効力を意味します。
  6. セメレー:「あなたの本当の姿を見せて!!!」
  7. ゼウス:「ぬっ・・・!(まじか!本当の姿、雷光なんだよな。人間の前で変身したら、感電して焼け死ぬじゃん。でも仕方ない、えいっ!)」
  8. セメレーは感電して死ぬ&お腹の子供は死ななかった!
  9. ゼウスはセメレーの胎内から子供を取り出して、自分の太ももに縫い付ける→ツッコミどころ満載
  10. ゼウスは困る:「ヘラに育ててもらうのは無理だし、ニンフ(妖精・精霊的なもの)に育ててもらうか。エルメスを呼んで、ニンフのところまでこの子供を届けてもらおう!」
  11. エルメス登場。子供を連れてニンフのもとへ行くが、途中子供がぐずる
  12. そんな時でも焦らない何でも屋エルメス。その場にあった葡萄のツルで子供をあやす。
  13. 無事、ニンフに引き渡して任務完了

 

フランスのニコラ・プッサンという画家はこの任務完了の様子を作品に残しています。

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オレンジ色のマントをつけている人物が、エルメスです。

子供をニンフと思われる女性に渡していて、画面左のニンフたちもちょっと盛り上がっている感じがします。

エルメスはこんな感じで、神々と人間の間にひょこっと現れて、ちょっと手伝ったり仲介したりすることが多いのです。

主役ではないけど、いると頼りになる。物語が円滑になったり、面白くなったりする。

岸辺露伴のような存在、それがエルメスなのです。

 

知っておくと、絵画鑑賞が楽しくなる「アトリビュート

先ほどの絵では、エルメスが目立つように描かれているので、人物を特定しやすいですが、「アトリビュート」に関する知識を知っているともっと絵画鑑賞が楽しくなります。

 

アトリビュート」とは、その人物に特徴的な象徴や持ち物のことです。

例えば、エルメスアトリビュートは以下のようなものがあります。

  • 羽根のついたサンダル
  • 2匹の蛇が巻き付いた杖

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ジャンボローニャ《天翔けるメルクリウス》1580年

アトリビュートを知っていると、見たことがない絵でも「あ、これはこの神様っぽいぞ!」というのがわかるので、知っていて損はないです。(神様だけでなく、キリスト教の聖人にもアトリビュートが存在します)

 

子供をエルメスに押し付けたゼウスのアトリビュートの一つは「鷲」です。

先ほどの絵を見てみると・・

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画面右の雲にゼウスと正妻ヘラがいる

ゼウスがいる雲の左側、ほんとに木の近くに鷲がいることから、「これはゼウスだな」と分かるというわけです。

 

そして、この絵にはもう一つ、重要なアトリビュートが含まれています。

中央の子供に注目すると、なにやら草でできた冠のようなものをかぶっています。

これはエルメスが子供をあやすのに使った葡萄のツルなのですが、この子供はやがて葡萄を超えて、ワインが好きになり、お酒の神様になったのです。

 

そう、酒の神バッカスの誕生!

パッと見ただけではエルメスが中心に描かれているように思われますが、やはりエルメスは常に脇役で、主役は子供・バッカスなのです。

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バロックの巨匠カラヴァッジョが描いた《バッカス》も頭に葉っぱをつけている。
ちょっと東洋ぽい感じが良いですねー

 

だから最初の絵のタイトルは「エルメスのはじめてのおつかい」でもなく、「ゼウスはトラブルメーカー」でもなく、バッカスの誕生」というタイトルがついているのです。

harvardartmuseums.org

まとめ

長々とエルメスについて書きましたが、まとめると・・・

今は大学に通っているので、この辺りの知識はマストで身につけているのですが、それ以前はこういう文化的な文脈が必要な作品を純粋に美しさだけで鑑賞するのは結構きつかったです。

「綺麗だけど・・・何を描いている絵なの?」と思っていたし、実際に美術館に行った時には有名な絵ばかり見ていた気がします。(「有名な絵を見たという経験」が欲しかった感じ)

 

でも、今は、何百年も前に描かれたり、作られたものを現代の人が理解するには、与えられたままの情報では不可能なんだと思っています。(言葉も違うし、時代も違うし、なにもかもが違い過ぎる・・・!)

もちろん、才能のような美的感覚のみで絵を語ることができる人もいるかも知れませんが、大概の人はそうではないはずです。

しかし、アトリビュートの知識のように「エルメス=羽根のついたサンダル」という事実を1つ知るだけで、理解できるようになる絵は相当増えます。

 

イギリスのナショナル・ギャラリーの館長も勤めたケネス・クラークという人は著書の中で、絵画の見方を4つのフェーズに分けています。

  1. 全体として見る
  2. くまなく見る
  3. 自分の知識&経験、これまで見たことがある別の絵を思い出して見る
  4. ものが違って見えてくる

1と2のステップはそのまま「目で見る」ことですが、3番目のステップではこれまでの知識や経験が問われています。

せっかく歴史に残る絵画を見るのであれば、1や2のステップで満足せずに、3や4まで踏み入れてこれまで気づけなかった絵の魅力に気づく体験をしてみてはいかがでしょうか?

 

ハリー・ポッターの映画でスネイプ先生を演じたアラン・リックマンも似たようなことを言っていました。(4:40あたりから)

www.youtube.com

芝居は忘れろ。美術館へ行け。音楽を聴け。ニュースを見て世界を知れ。意見を形成し判断力と感性を磨け。すると良質な台本がやってきた時にはそれまでに醸成しておいた想像力がちゃんと反射する。

 

知識や経験を自分の中で横流しにせずに、貯めていくようにしたいな、と思ったのでした。

おわり。

 

おまけ

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ハウルの動く城』のハウルの部屋

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鳥男になった時のハウル

ごちゃごちゃ感といい、モローの絵の真ん中あたりにいる巨大な羽根の生えた男といい、

なんかめっちゃ似てませんか?!?!?!(これでレポート書きたい)

 

 

参考文献:

www.amazon.co.jp